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【学校図書館訪問】筑波大学附属駒場中・高等学校

「科学道100冊」フェアに参加してくださる中学・高校は、毎年全国に約200校。プロジェクトが開始した2017年から連続で参加している学校も少なくありません。

「科学道100冊」は教育現場で、どのように活用されているのでしょうか?

 

今回は、2017年のスタート時から「科学道100冊」に参加くださっている筑波大学附属駒場中学校・高等学校の学校図書館を訪問し、その取り組みを伺いました。

筑波大学附属駒場中学校・高等学校の外観写真

筑波大学附属駒場中学校・高等学校

東京都世田谷区にある筑波大学の附属中・高等学校(男子校)。通称“筑駒(つくこま)”。国立大学の附属校として「先導的教育」「教師教育」「国際教育」に力を入れている。中学校は1学年3学級(定員約120名)で全員が高校へ進学する。高等学校は1学年4学級(定員約160名)。全国屈指の名門校としても知られる。

お話をお聞きしました。
加藤志保先生(司書)

大学では国文学を専攻。博士課程まで進み、すべての単位を取得して退学。在学中に教員免許や司書教諭、司書の資格を取得。長年NPOで子ども支援に携わったのち、2011年、お茶の水女子大学附属高等学校の司書(非常勤)に。2012年に筑波大学附属駒場中・高等学校の司書(常勤)に。

菅瑠衣先生と加藤志保先生の写真

司書の菅瑠衣先生(左)と、今回お話を伺った加藤志保先生(右)。

通路にあるオープンスペースの図書館

筑波大学附属駒場中・高等学校の図書館は、東西に分かれた中学校と高校の校舎の間を結ぶ建物の中にある。中学生も高校生も日常的に行き来し、壁のないオープンスペースの図書館の中を通ることになる。
「図書館に行くつもりがなくても自然に本が目に留まるので、そこからいかに寄り道してもらえるか。いろいろと工夫をしています」と司書の加藤先生。

図書館横の通路写真

生徒たちは移動教室の際などに、ここを通路として利用する。

 

本の置き方にも司書の先生たちの思いが詰まっている。通りすがる生徒から一番目に付きやすい棚には、新着の本や話題の本だけでなく、背表紙に先生の名前の入ったシールが貼られた本もずらり。さまざまな教科の先生たちの推薦本が、丁寧にシールで示されているのだ。

推薦本の本棚写真

マンガを読める四畳半のスペース

マンガの蔵書が多いのも、筑駒の図書館の特徴だ。手塚治虫などの名作や英語に翻訳されたマンガ作品のほか、ここにも先生たちの推薦本がたくさん並んでいた。「マンガも知を与えてくれる立派な本」という認識が強いようだ。
ユニークなのはマンガの棚で囲まれた四畳半ほどのスペース。生徒たちはこの少し閉ざされた空間でくつろぎながらマンガを読むことができるという。「コロナ禍以前は畳が敷かれていて、寝転ぶこともできました。早く復活させたいですね。図書館で過ごす時間が長くなれば、マンガだけでなく、いろいろな本と出会う機会が多くなりますから」。

漫画のスペースの写真

漫画の棚の写真

宮崎駿『風の谷のナウシカ』、横山光輝『三国志』、手塚治虫『火の鳥』から、『あさきゆめみし』『宇宙兄弟』『のだめカンタービレ』『ちはやふる』『こうのどり』『ゴールデンカムイ』なども。

ひときわ目立つ「科学道100冊」コーナー

カウンターそばのアクセスしやすい一等地に特設されているのが、図書分類4(自然科学)の本棚群。筑駒では理系の生徒が多く、先生・生徒から科学本のリクエストが多いことから、伝統的に分類4のラインナップが厚いそう。

 

なかでもひときわ目立つのが「科学道100冊」のコーナー。目印の青い丸ラベルが貼られた本がたくさん並び、その中でも司書の先生たちが一推しの本は表紙を見せて陳列されていた。

科学道100冊の棚写真

科学道100冊の展示写真

漫画『はたらく細胞』(体育科)や、読書と脳の関係性を紐解く『プルーストとイカ』(国語科)、『風の谷のナウシカ(英語ver)』 (英語科)、『牧野日本植物図鑑』(生物科)などに、教科の先生がたのお薦めシールが貼られている。

 

特設棚は、「科学道100冊」プロジェクト開始の2017年から設置。生徒の反応が良いこともあって、他学校の司書の先生にも、科学道100冊を薦めてくださっているそうだ。

 

加藤先生は、科学道100冊の本は理科だけでなく、さまざまな教科とつながっているところが良いと語る。棚の本を見ると、確かに、各教科の先生の推薦本シールが貼ってあるものも多い。「これは国語の先生、これは英語の先生、これは体育の先生のおすすめ本と重なっていますね」と加藤先生。青い丸ラベルと先生の名前入りシールの両方が貼られている本は存在感がある。

科学道のテーマ本で、未知に出会ってほしい

生徒たちの実際の反応はどうなのだろう。
「科学道100冊の棚の前によく来ます。何かを探しに来るというよりは“何だろう?”という感じで近づいて手に取りますね」。

 

生徒たちに人気の本は何だろうか。加藤先生に伺うと、『零の発見』、『フェルマーの最終定理』、『ご冗談でしょう、ファインマンさん』、『スマホ脳』などが挙がった。すぐに借りられるので「授業で紹介されたんだな」とわかるそう。

 

加藤先生は、毎年選ばれる「テーマ本」に期待しているという。
「科学道クラシックスの本は、ここの生徒なら特に薦めなくても出会う可能性があると思うのですが、テーマ本のほうは、先生や生徒のリクエストには入ってこないような本が多くあります。おそらく科学道100冊で選出されなかったら、生徒たちはずっと出会わなかったかもしれない本も含まれています。だから、テーマ本には未知の本との出会いを、より期待できます。ただ、生徒たちの関心から遠い可能性もあるので、“読まれるかな”というドキドキと“新たな出会いが生まれるかも”という期待が入り交じります」。

「本は守護神みたいなもの」

幼い頃から本と図書館が大好きだったと話す加藤先生。博士課程まで進んだ大学では、学内図書館でずっとアルバイトをしていたという。ただ、大学院を出てすぐに司書になったわけではなく、前職はNPOの職員として苦しい状況にいる子どもを支援する活動をしてきた。

加藤先生のインタビュー写真

本が好きで、かつ子どもと関わる仕事をしてきた加藤先生は、本は子どもにとっていつもそばにいてくれる守護神みたいなものだと話す。
「仲良くなることができる本が必ずどこかにあります。その本は絶対に裏切らないし、自分が忘れていても、助けてと言えば必ずそばに現れて守ってくれます」。中学生や高校生にとっての本もそういうものであってほしい、と加藤先生。

 

「図書館は安心して一対一で本に向き合っても大丈夫なところ。本を一人で読むのは孤独なことではないし、さみしいことでもありません。ここは一人でいても不自然ではない場所だという感覚を生徒たちに身につけてほしいです。図書館に来て未知の本と巡り会い、前向きな気持ちになってくれたらと思っています」。

図書室の全体写真

『科学道100冊』加藤先生のお気に入り

『科学と科学者のはなし』(寺田寅彦・岩波書店)

大学では国文学を専攻し、大学院では『平家物語』を研究していた加藤先生。寺田寅彦のエッセイは、文章として美しいと絶賛。「とても読みやすくて、文学として読める。それでいて、話の中身は科学。文も理も、どちらも誠実な感じを受けます。きちんとした日本語として科学を知ることができる貴重な本です」。

『ご冗談でしょう、ファインマンさん』(リチャード P. ファインマン・岩波書店)

「この本は、多くの生徒が読むからチャレンジしました。理系の分野は苦手意識がありましたが、読み始めたら面白くて、最後のページまでたどり着けました。科学者の人となりを感じられる本は、小説を読むように、本の中に入っていけます」。

加藤先生のお気に入りの本の写真