「科学道100冊 2020」によせて
日本で唯一の自然科学の総合研究所である理化学研究所と本の可能性を追求する編集工学研究所がタッグを組んで行う、科学×本のプロジェクト「科学道100冊」。
「科学道100冊 2020」の発表に際し、それぞれの組織を代表し、理化学研究所(理研)の松本紘理事長と、編集工学研究所(編工研)の松岡正剛所長からのメッセージをお伝えします。
なお2人のメッセージは動画でもご覧いただけます。
YouTube公式 理研チャンネル「科学道100冊 2020」によせて(2019年9月18日)
●理化学研究所・松本紘理事長「知を未来につなぐ読書」
●編集工学研究所・松岡正剛所長「今こそ科学の共読を」
松本紘理事長「知を未来につなぐ読書」
松本紘(理化学研究所 理事長)
奈良県出身。1965年京都大学工学部電子工学科卒業。工学博士。専門は宇宙プラズマ科学・電波科学、宇宙エネルギー工学。2008年10月京都大学総長に就任し数々の大学改革を実行した。2015年4月より現職。紫綬褒章、レジオン・ドヌール勲章シュバリエなどを受章。
コロナ禍における科学の重要性
持続可能な社会であり続けるためには、科学によるイノベーションが必須です。アフターコロナの時代は、コンタクトレス社会に移行するという見方もあります。5GやAI、AR/VRといった先端技術や、理研のスーパーコンピュータ「富岳」などが、世界のあり方や、人と人とのつながり方を変えるかもしれません。しかしどれだけ科学技術が進んでも、未来をつくる原動力は「人の輪」であることに変わりないと確信しています。
教育における「読書」の可能性
今、新型コロナウイルスによって人々は分断を余儀なくされています。その中で、空間・時間を超えて著者と読者をつなぐ「本」は、心や思考のつながりを維持していくための欠かせないツールです。我々の文明は共同作業、いわば「人の輪」とともに広がってきました。それは、これからも変わりません。過去の叡智を次代につなぎ、より良い未来をつくるために、読書の習慣を持つことはとても重要だと考えます。
科学道100冊 2020のテーマについて
- ●驚異のカラダ
ヒトは細胞の塊なのでしょうか? 心や精神といったものと、細胞が構成する身体は、どうつながるのでしょうか? 体の神秘に触れた先に、心にも思いを馳せてみてください。
- ●宇宙フロンティア
宇宙科学というと、銀河の果てまで続く「ユニバース」を浮かべる方が多いでしょう。しかし、将来的に宇宙を我々の生存圏とするためには、例えば月面探査など、“手の届く”宇宙科学、つまり「スペース」サイエンスもかかせません。地道な努力の積み重ねの先にある宇宙開拓が、人類が生きる環境の範囲を広げます。
- ●世界を変えた科学者
誰もが知るノーベル賞受賞者だけが科学者ではありません。それぞれの分野で奮闘し、人知れず人類の知的基盤をつくった科学者が、あまた存在します。こうした科学者たちの系譜に触れ、先人がどのように知的遺産を受け継いでいったかを知ることで、私たちは何を継承しどう進むべきか、これからの道を照らす松明を手にすることができるでしょう。
松岡正剛所長「今こそ科学の共読を」
松岡正剛(編集工学研究所 所長)
京都府出身。雑誌『遊』編集長、東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授を経て、現在、編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。情報文化と情報技術をつなぐ方法論を体系化し「編集工学」を確立。『知の編集工学』、「千夜千冊エディション」シリーズなど著書多数。
コロナ禍における科学の重要性
ウイルスという存在は、生物か非生物か、まだ見極められていません。この世のすべては生物か非生物のどちらかですから、ウイルスと向き合うことは、ある意味で万物の成り立ちを相手にすることです。ウイルスがどこから来たのかを辿ろうとすると、生物の歴史から細胞の履歴まで、さらには空気や地球の歴史まで遡る必要があります。このような大きな流れの中でコロナパンデミックを捉える意味でも、科学の役割はますます重要になります。
教育における「読書」の可能性
コロナ禍でテレワークが急激に浸透していますが、本は2000年前からテレワークを媒介してきた有能な情報のパッケージです。本があれば古代ギリシアにもナポレオンにも飛んで行けるし、その体験を互いに共有することもできるのです。編集工学研究所では20年前から本を共に読む「共読」というものを勧めてきました。今こそ、学校でも家庭でも科学の本を共読してほしいと思います。
科学道100冊 2020のテーマについて
- ●驚異のカラダ
私たちの体は細胞でできています。細胞は、遺伝情報をはじめとしたさまざまな情報をつくり出し、管理し、交換しています。心臓も皮膚も脳も、それぞれの役割ごとに情報をやりとりしているのです。驚くべき人体の仕組みを楽しんでください。
- ●宇宙フロンティア
地球と宇宙を一体として考える宇宙観が必要になっていると思います。スマホのGPS機能は衛星技術によるものですし、宇宙と私たちは常に関係しているのです。宇宙のフロンティアを目指す人類の挑戦を、ストーリーやドラマを追うように体験してみてください。
- ●世界を変えた科学者
科学の進歩には、常に科学者の存在があります。アインシュタインやエジソンのような世に知られる偉人もいますが、人知れず重要な研究を積み重ねる科学者もいます。「科学者」とはどういう職業なのか。科学道の本を通して、世界を変えたたくさんの科学者に出会ってもらいたいと思います。