「科学道100冊2021」松本紘理事長&松岡正剛所長 メッセージ

「科学道100冊2021」松本紘理事長&松岡正剛所長 メッセージ

「科学道100冊2021」によせて

日本で唯一の自然科学の総合研究所である理化学研究所と本の可能性を追求する編集工学研究所がタッグを組んで行う、科学×本のプロジェクト「科学道100冊」。

 

「科学道100冊2021」の発表に際し、それぞれの組織を代表し、理化学研究所(理研)の松本紘理事長と、編集工学研究所(編工研)の松岡正剛所長からのメッセージをお伝えします。

松本紘理事長「思考するには訓練が必要」

松本理事長の画像

松本紘(理化学研究所理事長)
奈良県出身。1965年京都大学工学部電子工学科卒業。工学博士。専門は宇宙プラズマ科学・電波科学、宇宙エネルギー工学。2008年10月京都大学総長に就任し数々の大学改革を実行した。2015年4月より現職。瑞宝大綬章、紫綬褒章、レジオン・ドヌール勲章シュバリエなどを受章。

科学道100冊2021のテーマについて

未来エンジニアリング

自分の将来がどうなるか、自分たちの暮らしがどうなるか、誰もが気になります。どうすれば未来が良くなるか、良くできるか、と本気で考えてみたとき、未来を自分たちで「創る」ことが大切だと気がつくはずです。
一方で、人間一人ひとりに与えられた時間は有限です。「私は、どういった学問を学び、どういった経験を積み、どういったテクノロジーを駆使して未来を創るのか」。
本を通じて、自分の未来のデザインに思いを馳せることが、その一歩になります。

 

脳とココロ

自分は何者なのか、そもそも自分とはなにか、と考えたとき、「自分」の定義の中心を占めるのは「ココロ」ではないでしょうか。ココロの起源は脳であると仮定した研究は数多あり、脳の機能の解明は進んでいますが、ココロの正体はまだわかりません。
生まれてから寿命が尽きるまでの数十年間、向き合わざるを得ない自分の正体、ココロの在り処は、自然科学と哲学の両方から迫ることで、いつか人類が解き明かしていくことでしょう。

 

つながる地球

私の周りの生きとし生けるもの、私の周りの木や草や水といった環境は、私と無関係ではありません。どれだけ孤高な人物であっても、誰もが、「一人で生きられない」ということを感じるときがあるのではないでしょうか。
「つながる」といった状態をウイルスなどのミクロな視点から、気候変動をはじめとするマクロな視点まで、幅広く見てみて欲しいと思います。私は確かに「つながっている」のです。

学生へのメッセージ

まとまって考える。そういった時間を確保することは容易ではありません。ましてや、思考が逸脱しないよう、一つのテーマを考え続けることはとっても難しいのです。
のめり込み、思考し続けるにはトレーニングが必要です。とりわけ学生時代は時間があります。学び直しが叫ばれていますが、社会人で学ぶということは容易ではありません。
学生のうちの勉強、勉強、勉強、がやはり大切。今年はこの3テーマについて大いに学んで欲しいと思います。

松岡所長「待ったなしの日々に、読みの力を」

松岡所長の画像松岡正剛(編集工学研究所所長)
京都府出身。雑誌『遊』編集長、東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授を経て、現在、編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。情報文化と情報技術をつなぐ方法論を体系化し「編集工学」を確立。『知の編集工学』、「千夜千冊エディション」シリーズなど著書多数。

科学道100冊2021のテーマについて

未来エンジニアリング

宇宙の変遷や地球の太古を調べることが、科学を発展させてきました。過去から未来が生まれてきたのです。それなら歴史研究と同じじゃないかと思うかもしれませんが、そうではありません。観察や探索に次から次へと新たな技術が加わってきたのです。テクノロジーやエンジニアリングの驚くべき活躍でした。
人工知能、暗号解読、ゲノム編集などの次世代技術の本を通して、意外な未来が見えてくるスリルを堪能してください。

 

脳とココロ

誰かを好きになりすぎるとどうなるか。心が疼きます。スマホをしすぎるとどうなるか。知覚が鈍って、ネットの言葉に心が痛みます。
私たちの心は頑丈ではありません。たいへん「ふつつか」にできていて、つねにストレスやバイアスを受けているのです。調整は脳が受け持っているのですが、残念ながら脳は自分の脳のことを考えられません。
たくさんの本を参考に、心が脳で構成されていることを学んでください。

 

つながる地球

コロナ・パンデミックは生物の多様性が生み出したものでした。気候温暖化のアラームは地球の炭素系の悲鳴です。
私たちはマクロな地球に暮らしているけれど、実は炭素やウイルスなどのミクロな動向と一緒にいるのです。小さな変化と大きな危険はさまざまにつながっているのです。そこにはさまざまな「鍵」と「鍵穴」があるのです。
では、そこをどうやって読みきっていくか。すばらしい本が「鍵と鍵穴の関係」を説明してくれます。

学生へのメッセージ

コロナ禍と地球温暖化は、私たちが待ったなしの状態になっていることを告げました。そのことを「人新世」の時代とも言います。
科学道100冊シリーズは、この「待ったなし」の日々のなかで、若い諸君がどんなことを学んでおくといいのか、その海図の一端を用意したものです。どこから始めてもらってもかまいませんが、ぜひとも「読み」の力を身につけていってください。
とびきりの本が選んであります。ぜひともエキサイティングに学んでみてください。

 

(撮影:STUDIO CAC)