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探究型読書

【科学道100冊の探究型読書①】三田国際学園中学校

「科学道100冊プロジェクト」は公共図書館や書店での展開だけではなく、実は学校(中学・高等学校)の授業でも幅広く利用されています。本連載では、「科学道100冊」を活用した「探究型読書」プログラムを授業に取り入れている3校の実践例を紹介します。1校目は東京都世田谷区にある三田国際学園中学校。同校の3名の先生に「探究型読書」という新しい学習プログラムの教育現場での有効性と「科学道100冊」プロジェクトとの関わりをうかがいます。

Case01

■三田国際学園中学校・高等学校 

117年の伝統を持つ私立学校(旧名:戸板中学校/戸板女子高等学校)。2015年、三田国際学園中学校/三田国際学園高等学校と改称し、共学に。生徒自らが課題を探索し、自発的に学ぶためのプロセスや思考法を教育に組み入れる活動を展開中。2019年度、中学校に、理系(数学、理科)分野のプロフェッショナル人材の育成を目指す「メディカルサイエンステクノロジークラス」(40人)を新設した。
 

■授業の概要

  1. 対象:中学1年生(40人)
  2. クラス:メディカルサイエンステクノロジークラス(MSTクラス)
  3. 実施日:2019年4月17日〜6月7日(全12コマ)

 

田中潤先生、辻敏之先生、佐藤充恵先生の写真

■お話をうかがいました

  1. ・田中潤先生・・・教頭 / 学習・進路指導部長。探求型読書プログラムの導入を決めた。(右)
  2. ・辻敏之先生・・・理科教諭。探求型読書プログラムの実践者。現在も大学に所属し、タンパク質を研究する研究者である。(真ん中)
  3. ・佐藤充恵先生・・・理科主任。クラスの担任として、授業を見守りサポートした。(左)

探究には「知識と知識をつなぐ力」が必要

― 今回、メディカルサイエンステクノロジークラスという新設のクラスで、「科学道100冊」を活用した「探究型読書」プログラムを実施しました。「科学道100冊」で選ばれた本の中には、中学生では内容を理解するのが難しい本も少なくありません。なぜ、中学校に入学したばかりの生徒たちを「探究型読書」プログラムの対象にしたのでしょうか?

探求型読書プログラムの導入を決めたを決めた田中潤教頭

田中教頭:理由はシンプルで、中学生の最初の時期に、知識のつなげ方を知ってほしかったからです。小学校の学習のほとんどは知識の獲得に重点が置かれますよね。能動的な学習の促進を目指す『調べ学習』も、実際には知識を得る活動が主です。知識獲得の延長線上で探究学習を行っても結局は知識の獲得だけに留まってしまうわけです。その先の「探究」にはなかなか向かわない。それでは生徒が自分の見方や意見、新しい発想をつくることができません。

 

物事を探究するには、知識と知識をつなげることが必要です。「自分の考え」というものは、どこか他の場所からやってくるのではなく、主体的に知識と知識をつないでいくその活動の最中に自分自身の中から醸成されるものです。そのことを分かってもらうために、中学に入学したばかりの生徒に「科学道100冊」を活用した「探究型読書」を体験してもらいました。

普通なら読まない本との「出会い」がワクワクを生む

― このプログラムは、生徒が「科学道100冊」の中から1冊の本に偶然、出会うことから始まります【step1】。並べられた100冊の本を前に、生徒たちは気後れしなかったのでしょうか?

探求型読書プログラムの実践者である、理科教諭の辻敏之先生

辻先生:生徒たちにはまず「外見だけで本を選んでみよう」と声をかけました。生徒たちは戸惑うことなく、むしろ「難しそうな本を手に持っている自分がちょっとかっこいい」という感じで、面白がっていました。他の生徒とは違う本を自分で選んだことに高揚感みたいな感情を覚えた生徒もいたようです。レコードやCDのジャケ買いのようなものですね。本を選んでいる最中に自然と読みたくなる気持ちが出てくるようで、ページを開こうとする生徒もいました。でも、ここではっきりと生徒に言いました。「いま、読んではいけない」と。

外見だけで本を選んでいる生徒たち

先生にそう言われて、生徒たちの多くは意外な表情を浮かべていました。だって、彼らにとって、本イコール読むものですよね。でも、今回は普通のやり方では本を読まない。「どういうこと?」という疑問が生徒たちの頭の中でわき起こったと思いますし、それは彼らにとって、授業に入る前のとても刺激的な導入部だったと思います。

「目次読み」で、生徒が考える読書の「概念」が変わった

― 1冊の本を選んだら、その後は「目次読み」【step2】。目次を読んで、大事だろうと思う言葉(キーワード)や気になる言葉(ホットワード)を見つけ、内容を連想していく作業です。このステップで苦労する生徒はいなかったのでしょうか?

 

佐藤先生:国語に苦手意識を持っている生徒は最初、「読書」そのものにネガティブな反応を示します。しかし、ワークを進めていくと、そんな生徒も面白がって、自分なりにしっかり考え、目次読みをした内容を友だちと共有していました。生徒の中にある読書の概念が少しずつ変わっていき、「本は必ずしも読むだけのものではなく、考えるためにも使える」ということを理解していったんだと思います。

 

― 「目次読み」の後は、抜き出したキーワードやホットワードの関連性を見出し、それらをつなぎ合わせて、(本の)要約をつくり上げていきます。本を読まずに要約を書くというのが、このワークの特徴ですが、生徒たちの反応はいかがでしたか。

 

辻先生:本の中身をほとんど読んでいないのに、ワークシートに沿って本から言葉を集めてつなげれば、本の要約ができてしまう。難しい内容の本でも見事な要約を書く生徒がいました。15人くらいは「読んだことがあるんじゃないの?」というレベルの高い要約を書いてきました。総じてみんな、楽しそうに作業していましたね。

目次読みをした後に、抜き出したキーワードやホットワードの関連性を見出し、それらをつなぎ合わせて、本の要約をする生徒

「帯づくり」でメタな視点を手に入れる

― 要約文ができたら、次は「帯」の作成【step3】。「帯づくり」はプロの編集者でも頭を悩ませる作業です。「読者にとって、この本の価値は何なのか」を考え、本の特徴や素晴らしさを端的に表現しなくてはなりません。中学1年生にこの作業ができたのでしょうか?

 

辻先生:はい、とてもうまくできましたよ。わたしたちの予想を上回るレベルの帯文を書いてきた生徒もいました。そういう生徒たちは、本を「自分の思考を深めるための道具」として使えるようになっていきました。

 

このワークの特徴は、(自分が選んだ)本を客観的かつ俯瞰的な視点で眺める訓練にあります。自分が書店員だったら、この本を売るためにどうやって紹介するだろうか? 帯をつくるという作業を通して、本のコンセプトを冷静に考えることが可能になります。

 

この後に続くワークはだんだんと思考の抽象度が上がっていきますので、まずはこのステップで、いかにうまく抽象度を上げる訓練を積めるかが大切です。「探究型読書」のターニングポイントになるステップであるとも言えます。本との距離感を少しずつ広げていくのがポイントなのです。

 

というわけで、ここまではほとんどの生徒が楽しくワークをこなしてきましたが、次の「三冊棚」のステップから苦戦する生徒がちらほら現れ始めました。

抽象度の高い作業につまずく生徒たち

― 「三冊棚」はこれまで自分が読んできた1冊の本に関連する(と自分で考える)本を“カン”で2冊選び、トライアンドエラーを繰り返しながら、オリジナルで魅力的な「3冊のセット」をつくるというワークです【step4】。このステップで苦戦するのはなぜでしょうか?

 

辻先生:書店で本を3冊セットで売るならどうするか? というようなお題のワークなのですが、このワークには、一部の生徒にとってとても高い「抽象度の壁」があり、乗り越えるのは相当しんどかったようです。大人なら緩めにコンセプトを設定して3冊の本の関連づけを行うのでしょうが、ある種の生徒たちは、共通点を探しにくい厳格なコンセプトに基づいて本を探そうとします。いわゆる「融通がきかない」状況にはまり、本を選びきれず、結果的にとても苦労してしまう。そういう生徒が目立ちました。

 

作業に関しては、あえて具体的なアドバイスはしませんでしたが、事前にこのワークの意味とその重要性は説明しました。三冊棚のワークは、とても難しいが、やりがいのあることだ、と。科学に限った話ではありませんが、人が何かを発見する時というのは、つまり、今まで気付かなかった「物事の関係性」に気付く時なんです。ニュートンは、木からリンゴが落ちるのを見て、「重力」につながる何かに気付きました。ニュートン以外の人は、リンゴが落ちるのを見て、ただ「リンゴが落ちた」と思うだけです。

田中潤先生、辻敏之先生、佐藤充恵先生の写真

発見=「関係性」に気づくこと

― 誰も気づいていなかった物事の「関係性」に気づくことが、発見の扉を開く。「三冊棚」をつくるのも、それに近いところがあると?

 

辻先生:そのとおりです。小さな発見かもしれないけれど、生徒は3冊の本を選ぶことで、著者たちが気付いていない関係性に気付いたんです。おそらく、著者たちはお互いを知らないだろうし、選ばれた他の2冊のことも知らずに本を書いたはずなんです。でも、その3冊を選んだ生徒は「この3冊には何らかの関係がある」と思った。そこにはきっと何か発見につながるものがあるはずなんです。

実際の研究現場では失敗の繰り返し

― 「三冊棚」は科学道の6ステップでいうと「めくるめく失敗」から「まるで魔法」へのブレイクスルーにあたりますが、まさにトライアンドエラーの末に、生徒は3冊の本の関係性を見つけていったというわけですね。

 

辻先生は、4年前まで大学で研究者をしていて、今も教員をしながら、大学で分子生物学の研究を続けているそうですが、科学者の視点から「科学道6ステップ」を見ると、どのように感じるのでしょうか。科学の現場の探究プロセスと同じでしょうか?

 

辻先生:この6ステップは、まさに科学の営みだと思います。もう少し言うと、実際の研究の現場では、「めくるめく失敗」ばかりです。「どうしてこうなるんだろう」と、なぞが解けるまでは何度も失敗を繰り返すものですし、一度解ければ、「なんで今まで分からなかったんだろう」と思うものです。

 

このワークショップでは生徒はたくさん失敗できたと思います。そして、漠然と本を読むのではなくて、本にはキーワードやホットワードという言葉が潜んでいて、それをつかんで他のものに結びつけることがとても重要であることを理解していったと思います。このようなことって、読書だけではなくて、これから生きていく上で、いろいろなところで求められるものだと思います。

ワークショップのために本を選ぶ生徒たち

ワークショップに参加する生徒たち

「問いを立てる」ことを学んだ生徒たち

― いよいよ最後のワークに入ります。改めて「三冊棚」を見つめ、その組み合わせの背景にある自分の問題意識を探り、新たな問いを立て、それをもとにして新書の新刊本を企画します。題して「エア新書」【step6】。

 

何もないところから「こんな本があったら?」と新たなものをつくり出していきます。どんな内容をどう展開させるか、具体的に構成を考え、目次もつくっていきます。高度な企画力、構成力が求められますが、生徒たちの出来はどうだったのでしょうか。

 

佐藤先生:「エア新書」の企画書の項目に企画者の問題意識を記入する箇所があるのですが、ある生徒のシートを見た時にちょっと驚きましたね。オリジナルの問いがきちんと立っていた。もちろん全員ではありませんが、多くの生徒が独自の問題意識を持っていて、しかもそれを言語化できていた。
新書の新刊本を企画する「エア新書」のワークシート

辻先生:確かに、とても大きな問いを立てた生徒も何人かいました。たった1冊を選ぶことから始まって、最後にたどり着いた疑問が「人間はどこまで望むのか』というものだったりすると、すごいなと思いますね。

 

田中教頭:教科書で正解を導く原理だけを見ていく授業では決して出会えないプロセスが、この「探究型読書」プログラムにはありましたね。だからこそ、従来の授業では表現できなかったことを表現する生徒が何人も出てきたのだと思います。

 

辻先生: 三田国際では2年生になるとゼミ形式の授業が始まります。生徒は7つあるゼミのいずれかに属し、ロジカルに物事を考えたり、グラフの背後にあるものを分析したり、研究したことを自分たちの言葉でどのように外に出せばいいかを考えていきます。そもそもサイエンスリテラシーという授業は、ゼミの準備のためにあるのですが、実際、「探究型読書」プログラムの実践を通して、生徒には知識の基本的な使い方など、ものを考える際の基盤的な力が身に付いたと思っています。

「探究型読書」のワークショップを受ける生徒たち

「科学道100冊」の本だからこそできた「探究型読書」プログラム

― 今回、「科学道100冊」を活用した「探究型読書」プログラムを授業に取り入れられたわけですが、実際に授業を行ってみて、この良書リストにどんな意味があると思いましたか?

 

田中教頭:「探究型読書」プログラムは、生徒が最初に選ぶ1冊がかなり重要だと思いました。図書室にあるすべての本を対象に本を選ぶとなると、読みやすいけれど内容に深みがないものを手に取ってしまうかもしれません。実際、どの本でもいい、というやり方でも「探究型読書」プログラムを試したのですが、あまりうまくいかなかったんです。きちんと選書された『科学道100冊』から選べたのは、とてもよかったと思っています。

 

辻先生:普通なら読まないような本だからよいんです。生徒たちは何の先入観もなく本を選んでいましたね。しかも自分で選んだ本だから、ワークを進めるたびに、その本に愛着や責任感みたいなものを感じていたようです。

 

また、本はそれぞれ1冊ずつしかないので、結果的に皆、違う本を選べたのもよかったと思います。皆で同じ本を読むと、要約する時などはどうしても周りと比べてしまいます。それぞれで違う本を読んでいると、比べることはないので、(読みの)正しさを競う必要もない。他の生徒と自分を比べて劣等感を抱いたりする必要がないから、自信をもって発表できた生徒が多かった。

 

佐藤先生:数学が苦手な生徒が、なぜか数学の本を選んで、自分が考えた帯文を発表する時、その本の面白さを熱心にアピールしていたのも面白い現象でした。

本の面白さを熱心にアピールする生徒

「あるべき姿」を描くことが大切

田中教頭:「科学道100冊」には、科学の「あるべき姿」みたいなことが書かれている本が多くて、私はそれがいいと思っています。「私たちは何に向かって生きていくのか」というような“ウェット”な話が載っている本。そんな「あるべき姿」について書かれた本が探究活動には必要だと思っています。探究というのは、自分の描きたい「あるべき姿」と現代の「課題」の差分として、新たな「問い」が現れた時に始まるものだからです。

 

今、「あるべき姿」を生徒に描かせないまま、とにかく問いを立てさせる活動が多くなっているように感じています。たとえば、SDGsを用いて考えさせる活動をよく見かけますが、そもそもSDGsのゴールがどうして設定されたのか、その「あるべき姿」を生徒たちが持てないままなら、その探究活動はやがて形骸化していきます。

 

辻先生:科学的に専門性の高い本を読みたければ、専門書や論文を読めばいい。しかし、教育的には、その手前にあるものがとても重要だと思っています。科学の客観的なところと、作者の主観的なところが混ざった本。あるいは、作者が研究者であれば、その人の研究をする時の手触りまで感じられるような本こそ生徒に読ませたい。「科学道100冊」には、そんな本が多いのがよかった。

「探究学読書」は自己理解につながる

田中教頭:秋に実施した学園祭で、このクラスの生徒には、1人10分ずつ口頭発表をしてもらいました。テーマは「自己理解と自己開示と自己表現」です。

 

これまで生きてきた中で、「これは大切だ」と思ったことをメッセージにして伝えるという活動です。事前に自分の今までの人生を振り返ってもらい、小学校の先生や家族にインタビューしてもらいました。単に自分の個性を紹介するのではなくて、自分というものを見つめ直した上でメッセージをつくる。難しいテーマでした。

 

辻先生:この学園祭の発表は、「科学道100冊」を活用して「探究型読書」プログラムの授業でやったことと親和性が高いんですよね。

 

きっと、自分の人生の棚卸しをしていく中で、キーワードやホットワードを見つける作業があっただろうし、自分を遠くから見つめたり、そこから問いを見出したりしたはずなんです。

 

一部の生徒たちには「出るべくして出た疑問」があり、「出るべくして出た結論」があった。彼らはきちんと問いを立て、未来に向けて落とし込めていた。「探究型読書」のワークを意識してこの発表に応用した生徒はあまりいないと思いますが、しかし、あのワークで身に付けた「何か」が生きていたと私には思えます。

 

「本と対峙する」ことは、「自分を見つめる」ということ。「探求型読書」はそれを地で行くプログラムでしたね。

 

田中教頭:そうですね。生徒が「三冊棚」のワークで本と対峙する時、自分が今、何を考えようとしているのかをとらえられないと、壁を突破できないわけです。思考過程で高い抽象度が求められるようになると、どうしてもメタな視点が必要になる。そのような精神的な負荷を生徒たちは今までほとんど経験しなかったと思うし、そのような経験の中から自分自身で問いをつくり出すということも、たぶん初めてのことだったと思います。しかし、そういう経験があったからこそ、「自分」のことも探求できるようになってきたんだと思います。

田中潤先生、辻敏之先生、佐藤充恵先生の写真

 

三田国際の田中教頭、辻先生、佐藤先生、ありがとうございました。

 

富士見中学高等学校/かえつ有明の実践例も追ってご紹介します。

 

(おわり)

 

科学道100冊プロジェクトでは、学校(中学・高校)と連携し、「科学道100冊」を活用した探究型読書プログラムを展開しています。「考える力を育てる「探究型読書」とは?」については下記のリンクからご覧ください。
「科学道100冊」を活用した、探究型読書プログラムを展開中!