menu

長瀧重博博士

「宇宙物理の研究を決意した、本との出会い」長瀧重博博士インタビュー

長瀧重博(ながたき・しげひろ )博士
理化学研究所 開拓研究本部
長瀧天体ビッグバン研究室 主任研究員
 

東京都出身。東京大学で博士(理学)の学位取得後、東京大学大学院理学系研究科助手、京都大学基礎物理学研究所准教授を経て現職。専門は宇宙物理学で主に星の爆発(超新星・ガンマ線バースト)を研究している。
長瀧天体ビッグバン研究室ホームページ:
http://www.riken.jp/research/labs/chief/astro_big_bang/

高校2年、朝永振一郎との出会い

高校時代、学校の図書室が好きで、昼休みや放課後は図書室で勉強や読書をしていることも多かったという長瀧さん。「高校2年生のある日、ふと手に取ったのが朝永振一郎先生の著作集『鏡の中の物理学』でした。

 

その中の『光子の裁判』を読んで、これは今の自分にはよく分からないが、きっと深い真理を含んでいるに違いないと思いました」。朝永は、理研で仁科芳雄の研究室にも籍を置いていた物理学者で、1965年にノーベル物理学賞を受賞している。

 

「『光子の裁判』は、量子力学で記述されるミクロな世界において粒子は本質的に波の性質も併せ持つことを、裁判という形で紹介した物語です。

 

そこには、自分の直感では理解できない、とても不思議な世界が広がっていました。直感に従っていけば解ける高校の物理と違い、直感を捨てなければ理解できない真理があるというのは、衝撃でした」。

長瀧重博博士

進路を模索した大学時代

「大人になるにつれて自分の人生や可能性が限定されていくように感じていた」と言う。小学生のころは国語も算数も同じように勉強するが、高校になると文系と理系に分かれ、大学ではさらに専門分野に分かれる。「限定されていくのだったら後悔しない選択をしたかった」。

 

東京大学理科一類に進んだ後は、3年次の学部・学科選択を前に、自分が本当にやりたいのは何なのかを考えていた。『光子の裁判』などの影響で物理学に関心があったが、物理学といっても素粒子、宇宙、物性などいろいろある。数学や、これから発展しそうな生命科学にも惹かれていた。

将来を決めた、ホーキングの宇宙論

「選択の参考にしようと、そのころも、さまざまな本を読みました。その中で一番惹かれたのが、スティーヴン・ホーキング先生の『ホーキング、宇宙を語る』でした」。

 

以前から宇宙の始まりについての本を読み、科学番組を見ていたが、よく分からず、もやもやした思いが残っていた。「その本でホーキング先生は、宇宙がどのように始まったのかを、極力数式を使わずに分かりやすく語っていました。

 

しかしその解説からは、物理学や数学を駆使すれば人類が宇宙の誕生を理解できる可能性があるという強いメッセージを感じました。そのことにわくわくし、宇宙物理学を専攻しようと決めました」。

 

大学院生だった1995年のこと。「私の指導教官だった佐藤勝彦先生の要請に応える形でホーキング先生が来日されました。あいさつをして、写真を一緒に撮ってもらう幸運に恵まれました。そのときの写真は、今でも私の宝物です」。

長瀧重博博士

本で「真理を知りたい」気持ちを再認識

『ホーキング、宇宙を語る』は、大学2年生のときに買ったものを今でも持っている。「時々読み返すのでボロボロです。読むたびに、物理的な考え方など発見があります。

 

『光子の裁判』は図書室で借りたので手元になく、この取材の前に購入して読み返しました。量子力学を学んだ今では理解できますが、これは高校生には分からない」と笑う。

 

「朝永先生もホーキング先生も真理に向かって真っすぐに突き進んでいます。本を読み返すことで、真理を知りたいという研究の原点を再認識し、それを忘れてはいけないと気が引き締まります」。

宇宙誕生の謎を追いかける

長瀧主任研究員は現在、大質量星の爆発現象を研究している。「佐藤先生は、中性子星の研究からヒントを得て、誕生直後の宇宙で起きたであろうインフレーション理論の提唱に至りました。

 

そうしたサクセスストーリーが私を励ましてくれます。私は、ガンマ線バーストという爆発現象で形成されるであろうブラックホールの研究に邁進することで、宇宙開闢(かいびゃく)のメカニズムに迫ることができると信じています。

 

宇宙の始まりは神の存在と関連して語られることも多く、『ホーキング、宇宙を語る』にも宇宙の始まりを研究する難しさを示すエピソードが書かれています。西洋とは異なる宗教観が根付いている日本では、自由な発想で宇宙の始まりを研究できるのかもしれません」。

長瀧重博博士

知的欲求は一生持ち続けたい

「研究とは別に『勉強』の時間を取るようにしています」と長瀧主任研究員。最近では、100年も前の数学者が考えた定理についての本を読んだ。

 

「知的欲求ですね。研究につながることもありますが、それだけが目的ではありません。知的欲求は一生持ち続けていきたい。引退しても図書館に通って本を読み続けますよ」。

長瀧重博博士

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト 撮影:STUDIO CAC)

鏡の中の物理学

朝永振一郎/著

鏡の中の物理学

講談社

1976年6月

ホーキング、宇宙を語る

スティーヴン・W. ホーキング/著

ホーキング、宇宙を語る

早川書房

1995年4月