「PickUp!科学道」では、これまでの科学道100冊のラインナップの中からテーマに沿って、特におすすめしたい本をご紹介します。
今回のテーマは「ノーベル賞受賞者」。授賞式で華やかなタキシードやドレスに身を包み、晴々とスピーチをする科学者たちは、日頃何を考え、どんな暮らしをしているのでしょうか?そして彼ら彼女らの研究は私たちの暮らしにどうつながっているのでしょうか?
歴史に名を残す偉人から昨年受賞したばかりの話題の科学者まで、ノーベル賞受賞者の「素顔」に触れることができる10冊を厳選しました。
世界初。ノーベル賞を2回受賞した女性の生涯
1903年にノーベル物理学賞、1911年にノーベル化学賞を受賞。世界初、二度のノーベル賞に輝いたのが、夫ピエールとともに放射能を発見し、その研究に生涯を捧げたマリー・キュリーだ。
貧しかった幼少期、結婚祝いに自転車で出かけた新婚旅行、「世紀の大発見」となった放射性元素の存在をつきとめた、ほったて小屋のような研究室、アインシュタインとの交流。女性の大学進学すら珍しかった時代に、自らの力で研究の道を切り拓いたマリーの功績と生涯を追う。
物理学の巨人たちによる知のバトルロワイヤル
「本当に理解している者はひとりもいない」と言われるほど難解とされる量子力学。その解釈をめぐり激論を交わしたのが、量子力学の「育ての親」、ニールス・ボーア(1922年ノーベル物理学賞)と、かのアルベルト・アインシュタイン(1921年ノーベル物理学賞)だ。
二人の論争を軸に、ヴェルナー・ハイゼンベルクやド・ブロイ、エルヴィン・シュレーディンガーといった同時代の理論物理学者、物理学者たちの人間ドラマや戦争の影が描かれる。物理学の巨人たちが巻き起こす知のバトルロワイヤルを堪能しながら、物理学100年の流れを追える科学ノンフィクション。
無口な少年がノーベル賞を受賞するまで
1949年に日本人で初めてノーベル賞(物理学賞)を受賞した湯川秀樹博士が、自らの幼少時から青年期までを回想したエッセイ。子どもの頃、その無口さから付いたあだ名が「イワン(言わん)ちゃん」。物静かな少年が物理学の道に目覚めるまでの道のりが、人生の多くを過ごした京都の風景と共に描かれる。
家族との交流や進路の決め手となった友人の一言など、親しみやすい人となりが感じられる一方で、科学者としての誇りに満ちた名言も散りばめられている。「私は学者として生きている限り、見知らぬ土地の遍歴者であり、荒野の開拓者でありたい」。(P5)
DNAの二重らせん構造を発見した、若き研究者のリアル
「DNAは二重らせん構造をしている」。生物学の常識を覆す大発見、その舞台裏で何が起きていたのか―。
著者のジェームス・D.ワトソンがDNAの二重らせん構造を証明し、1962年にノーベル生理学・医学賞を受賞するまでの、研究の日常やライバル研究者との生々しい競争のやり取りが赤裸々に語られている。2020年にノーベル化学賞を受賞したジェニファー・ダウドナなど、この本をきっかけに科学の道を志したという科学者も少なくない。
関連リンク:
理化学研究所・理事の小安博士が、影響を受けた本として『二重螺旋』を挙げています。
ユーモアのあいだにのぞく科学への情熱
探究心にあふれ、大のいたずら好き。アメリカの物理学者で1965年にノーベル賞物理学賞を受賞したリチャード・P・ファインマンが自身の研究者人生(といたずらの数々)を振り返った、愉快なエピソード満載の自伝。
遠い存在と思われがちな科学者の人間的な側面に出会える本として、多数の研究者から推薦を受けた1冊。将来研究者を目指す人にぜひ読んでもらいたい。
関連リンク:
大谷知行博士「ソクラテスとファインマンに学んだ”生き方・考え方”」
理化学研究所の大谷博士が、影響を受けた本として『ご冗談でしょう、ファインマンさん』を挙げています。
新書で読める、やさしい物理学の歴史
蛍光灯に電話、冷蔵庫に換気扇。身の回りを見渡せば、私たちの暮らしは物理学を応用した製品であふれている。「でも、そもそも物理学って何だろう?」。1965年、リチャード・P・ファインマンらと共同でノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎が、やさしい書きぶりでその疑問に答える。
16世紀から産業革命期における熱学の完成までの歴史をたどりながら、ケプラー、ガリレオ、ニュートン、ワットなど、名だたる偉人たちの功績と私たちの日常との関わりを教えてくれる。
生き物愛が止まらない、動物行動学の入門書
「刷り込み」の理論などで知られ、動物行動学(エソロジー)を開拓したコンラート・ローレンツ。その功績により1973年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
「この本は何よりも生きた動物たちに対する私の愛から生まれた」という言葉の通り、愛情とユーモアたっぷりに生き物たちの生態を綴った1冊だ。家の中で大暴れするサルや、洗濯物を食いちぎるオウムなど、苦労話は数知れず。だからこそ感動的でもある。時おり差し込まれる著者直筆の挿絵も愛らしい。
ノーベル賞博士の科学史講義ノート
「ギリシアの『科学』はポエムにすぎない」。容赦なくそう主張するのは、1979年にノーベル物理学賞を受賞したスティーヴン・ワインバーグ。本書の元となった大学での科学史の講義ノートは、「いかに古代ギリシアの物理学が科学ではないか」という議論から始まる。
化学、生物学は二等の科学?キリスト教と科学の関係とは?現代の科学者の目から過去を記述することで浮き彫りとなる、科学発展の道のり。「本書は不遜な歴史書だ」と自ら断言する著者の視点を借りて、いま一度科学を「発見」してみたい。
日本人科学者の対談に好奇心が揺さぶられる
「考えるとは、感動することだ―」。2008年に「CP対称性の破れ」の起源の発見によりノーベル物理学賞を受賞し、今年7月に逝去された益川敏英氏と、21世紀最大の偉業と言われるiPS細胞の生みの親で2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥氏による対談。
iPS細胞ネーミングの裏話から、うつとのつきあい、大発見はどうやって生まれるかまで。世界的科学者二人の楽しくも知的なおしゃべりを、隣で聞いているかのように楽しめる1冊。
最新ノーベル受賞博士が案内する遺伝子編集
2020年にノーベル化学賞を受賞し、いま最も旬な科学者のひとり、ジェニファー・ダウドナ。彼女が共同研究者のエマニュエル・シャルパンティエと共にその功績を讃えられたのが、「CRISPR-Cas9」と呼ばれる、遺伝子を数時間で編集できる技術の発見だった。
農作物の改良からマンモス復活プロジェクトまで、この技術を生かして世界各地で次々と行われる試み。遺伝子編集技術は福音か、厄災か?世界を揺るがす新技術の可能性とリスクを、発見した研究者自らが問いかける。