科学道100冊プロジェクトでは、学校(中学・高校)と連携し、「科学道100冊」を活用した探究型読書プログラムを展開しています。
「探究型読書」とは、編集工学研究所が提案している「自ら考える力」を育てるための、本を活用した新しい学びのスタイルです。
本を読むことそのものを目的とする読書ではなく、ひとりひとりの「知りたい!」という好奇心や探究心を触発し、“主体的で対話的な深い学び”を起こすために、本を思考のための「道具」として扱います。
今、教育現場でさまざまな模索が始まっている「探究学習」にも活用できるメソッドとして、「科学道100冊」を用いた「探究型読書プログラム」にも注目が集まり始めています。
このシリーズでは、当プログラムを導入いただいた学校の様子をお届けしていきます。
考える力を育てる「探究型読書」とは?
「探究型読書」で育まれる「考える力」とは、どういったものでしょうか。編集工学研究所では、考える力の正体を「情報を編集する力」であると捉えています。
そもそも、わたしたちの思考プロセスはブラックボックスです。日頃、自分がどのように「考えている」かを意識することはほとんどありません。
編集工学のアプローチでは、情報のインプットとアウトプットの間に情報編集の4つの段階があると考えます。
情報の①収集、②関係づけ、③構造化、④表現です。
それぞれの思考のフェーズを意識的に鍛えていくことにより、想像力を引き出し、思考を前に進める力を養うことができるのです。
探究型読書は、このそれぞれの思考フェーズを本を用いて鍛える手続きが組み合わさったプログラムです。情報編集の「型」を取り入れながら、考える力を育てていきます。
「探究型読書」プログラム3つのアウトプット
一般的な「読書」のイメージは、著者の見解を理解したり、著者が提供する知識を得るといった、受け身的な読者像が中心にあります。「探究型読書」ではそこを反転させて、読者が主体的に本を活用することを目指します。自分の想像力を働かせて能動的に読み、そこから得た視点を他者と交換しあうことを通して、インプットとアウトプットをセットで動かすのが「探究型読書」の特徴です。
中高生向けの探究型読書プログラムでは、本を活用した思考のアウトプットを3段階に分けています。それぞれ情報編集の4つのフェーズを組み合わせたワークです。
- 1.本の帯づくり…1冊の本を選び、表紙やもくじから情報を得て、帯をつくる
→連想力と要約力を鍛える(情報の収集と表現) - 2.三冊棚づくり…選んだ1冊に2冊を追加し、3冊のセットをつくってタイトルをつける
→抽象化と具体化を行き来する - 3.新書を企画…自分の疑問から本の企画(タイトルや章立てまで)を考える
→自分の考えを構造化する(情報の構造化と表現)
たまたま出会った1冊の本からスタートし、思いがけない好奇心や新たな問いが芽生え、次に読みたい本につながっていきます。複数の本の関係性をつなぐことで自分の関心領域と向き合い、知のネットワークが豊かになっていきます。こうした一連の探究型読書の手続きを経る中で、創造的な思考力の基盤づくりができていくのです。
「科学道100冊」のステップはまさに探究学習
プログラムに使用する書籍は、「科学道100冊」です。このシリーズで紹介する学校事例では、2017年に発表された100タイトルを使用しました。
「科学道100冊」のコンセプトは、科学者たちの生き方・考え方に学ぶこと。
「科学道100冊」では、科学者の思考プロセスを6つのステップとして取り出しましたが、この6ステップが「探究学習」が目指す学びのサイクルそのものなのです。
- 1)はじまりは疑問 …最初に「なぜ?どうして?」と疑問をもつことからはじまる。(探究テーマに出会う)
- 2)果てしない収集 …不思議におもったこと、好きなことのデータをとことん集める。(情報を収集する)
- 3)導かれたルール …集めた情報からルールを発見する(抽象化して仮設を立てる)
- 4)めくるめく失敗 …仮設を立てたら検証し、試行錯誤を繰り返す(実験を重ねる)
- 5)まるで魔法 …思いも寄らない発見や新しいアイデアが出現する(ブレイクスルーが訪れる)
- 6)未来のはじまり …未知の関心領域が立ち上がる。そしてまた新たな疑問へ(新たな関心領域に出会う)
「科学道100冊」の探究型読書プログラムは、科学者たちの生き方や考え方ともいえる、この探究的な6ステップを骨子にして組み立てています。
プログラム(授業組み立て)の詳細
科学道の6つのステップに沿って、探究型読書の3段階のアウトプットを行うプログラムがこちらです。
授業枠は学校それぞれの課題や狙いや状況に合わせて、最少6コマ〜12コマ程度で実施。生徒の学年や進行具合に合わせてカスタマイズしています。
Step1 はじめのQ読み(はじまりは疑問)
科学道100冊の中から1冊の本に偶然に出会うことから始まります。
ズラッと並べられた100冊の本の中から、「ジャケ買い」感覚で直感的に1冊を選びます。
》授業の狙い
●Reading self(読み手としての自分)を立ち上げる
- 1-a 連想的な読み方になじむ
- 1-b 関心の向き(注意のカーソル)をとらえる。
- 1-c 自由な問い立てを交わせるようになる。
》ワークのポイント
本の中から「?」と思うこと、知りたいことを自由に取り出す。自分の内側にある好奇心を立ち上げていきます。
Step2 Key Hot New(果てしない収集)
選んだ1冊から、ざっくりと情報を取り出します。
目次からキーワードなどを取り出し、要約文を作る段階です。
》授業の狙い
●Associative(連想的) になる
- 2-a 本の情報を分節化する。
- 2-b いろんな文脈で情報をあつかう。
- 2-c 共感や疑問も情報として動かす。
》ワークのポイント
目次を手がかりに、本文からキーワード・ホットワードをどんどん抜き出す。まずは情報の可能性を広げます。
Step3 要約読み→帯づくり(導かれたルール)
要約文から帯をつくります。
抜き出したキーワードやホットワードの関連性を見いだして、つなぎ合わせて、本の要約を作り上げます。
》授業の狙い
●Heuristic(発見的)になる
- 3-a 本の内容を要約してあつかう。
- 3-b 自分の視点で関係づけ、要約する。
- 3-c 発見を起こす。問いをつくる。仮説形成する。
》ワークのポイント
Step2までの本を、内容をかいつまんで帯にする。発見力と要約力を総動員します。
Step4 三冊棚(めくるめく失敗)
帯をつくった1冊に、関連しそうな本を2冊選びます。
トライアンドエラーを繰り返しながら、オリジナルで魅力的な三冊の棚を作っていきます。
》授業の狙い
●Creative(創造的)になる
- 4-a いろんな関係づけを試す。
- 4-b さまざまなコンテキストを探る。
》ワークのポイント
Step3までの本と関係しそうな本を探して、関係線を引く。思考の抽象度が一段上がるフェーズです。
Step5 三冊棚仕上げ→エア新書企画(まるで魔法)
導かれたコンセプト(抽象化された視点)と向き合いながら、さらに説得力のあるストーリーを仕上げます。
》授業の狙い
●Narrative(物語)になる
- 5-a 背景につながりをつける。
- 5-b メッセージを組み立てる。
》ワークのポイント
Step4までの三冊棚で問いを立て、それをもとに新書本を企画する。物語力、構成力が問われる場面です。
Step6 エア新書(未来のはじまり)
いよいよ最後のワークに入ります。改めて三冊棚を見つめ、その組み合わせの背景にある自分の問題意識を探り、新たな問いを立て、それをもとにして新刊本を企画します。
》授業の狙い
●Represent(表現)する
・問いと研究領域の設定をする。
》ワークのポイント
Step5の問いをもとに、新書本企画の目次構成に展開する。新書を一冊想定することで、新たな問いやもう一歩進んだ探究心が芽生えることを奨励します。
以上のステップを通して、探究力のおおもととなる、好奇心を呼びさます力、問いを発見する力、要約し構成していく力を身に着けていきます。
次回からは、この「探究型読書プログラム」を実際に授業に導入した3校(三田国際学園中学校、山崎学園富士見高校、かえつ有明中学校)での実践例をご紹介していきます。