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【科学道100冊の探究型読書④】姫路市立手柄小学校

近年、教育現場では「アクティブ・ラーニング」への関心が高まっています。姫路市にある手柄小学校では、非日常的な体験を契機に自律的な学びを立ち上げる試みを行っていました。そんな同校のユニークな取り組みに「科学道100冊」と「探究型読書」が活用されていました。

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■姫路市立手柄小学校

兵庫県姫路駅の南西にある標高約50メートルの手柄山。そのすぐ隣にあるのが手柄小学校です。開校は明治6年。同校では1学年約3クラス、約600人の子どもたちが学んでいます。

 

■授業の概要

対象:小学3年生(100人)

実施日:2019年12月12日

 

全3コマを使った地域連携型のアクティブ・ラーニング。この授業の中で「科学道100冊」を活用。

  1. 登校~1時間目:熱気球で作る特別な体験
  2. 2時間目:本で進め!表現ワーク
  3. 3時間目:本で進め!冒険企画ワーク

■授業作りをご一緒させていただきました

  • ・三浦一郎先生…手柄小学校3年1組担当教諭。教室ライブラリーを作る取り組みの過程で「科学道100冊」に出会い感銘を受け、今回の授業をプロデュース。
  • ・鵜鷹司隊長…播磨風船飛行隊、パイロット。子どもたちに大きな夢を持ってほしいという想いから、企業経営の傍ら、熱気球の飛行隊を作り、さまざまな場所に熱気球サプライズを届けています。

3年生を担当する3人の先生。右から三浦一郎先生、北島桃子先生、清水由季先生3年生を担当する3人の先生。右から三浦一郎先生、北島桃子先生、清水由季先生

 

右が鵜鷹司隊長。左は『紅の豚』の主人公にコスプレしたPTA会長

右が鵜鷹司隊長。左は『紅の豚』の主人公にコスプレしたPTA会長

 

登校~1時間目:熱気球で作る特別な体験

2019年12月12日の早朝、子どもたちが登校する前の姫路市立手柄小学校の校庭で、気球の風船(バルーン)部分が大きく膨らみ始めました。

 

熱気球の持ち主は「播磨風船飛行隊」。鵜鷹司さんを中心とした熱気球愛好家で結成されたチームです。熱気球の素晴らしさを子どもたちに伝えようと、様々な学校の校庭で熱気球を間近に見せるデモンストレーションを行っています。この企画は、「手柄小学校」、「播磨風船飛行隊」双方の協働により実現したのでした。

 

この特別イベントは、子どもたちにとってはサプライズ。学校に熱気球が現れるとは思いもしなかったでしょう。

学校に用意された熱気球

バルーンの中の空気がガスバーナーの炎で温められていくと、寝ていたバルーンが立ち上がり、校舎を超える高さになりました。バルーンの下につるしたバスケットにパイロットと校長先生、PTA会長が乗り込み、子どもたちの登校を待つことに。PTA会長は、アニメ映画『紅の豚』の主人公に扮していました。

 

やがて子どもたちが登校。ゆっくりと立ち止まって「どうして?」「何やっているの?」「なんで?」と口々につぶやきました。校長先生が「おはよう!」とマイクであいさつすると、子どもたちは「あっ、校長先生がのっている!」「あっ、豚ものっている」と気が付くものの、なぜ熱気球が校庭にあるのかという疑問は膨らむばかりでした。

学校に用意された熱気球と驚きと不思議さが止まらない子供たち

子どもたちは少しずつ熱気球に近づいていきました。しかし、ガスバーナーが大きな音とともに炎を立てると「うぉー」と一歩後退。風にあおられてバルーンが傾くと「わー」と退避。校庭で子どもたちは右に左に動き回りました。

 

校長先生から熱気球を紹介されても、子どもたちは驚きと不思議さが止まらない様子。「なんなん?」「今日は何の日なの?」「どこに飛んでいくの?」「絶対にパンクするって!」と、言葉があふれていました。

熱気球のカゴが浮き上がりそうになる瞬間

熱気球のカゴが浮き上がりそうになると、子どもたちは飛び跳ねながら大喜びしていました。残念なことに、この日は風が強くなったため、予定より早く終了になりました。空気が抜かれ、バルーンが長細くなって校庭にくったりと横たわりました。その周りを取り巻く子どもたち。さっきまで大きく膨らんでいたバルーンをじっと見つめて、何かを感じているようでした。

 

「熱気球は大空を冒険するための道具です」。飛行隊の隊長の鵜鷹さんが子どもたちを集めて説明をしました。そして、小さなガス風船が子どもたちそれぞれに渡されました。

 

「この風船に願いごとをして、一人ひとり、願いが叶うよう努力をしよう。そうすれば熱気球のように、どこにでも自由に行って、冒険ができるよ」と語りかける隊長。全員でカウントダウンをして手を放すと、ガス風船は舞い上がり、あっという間に空の中で小さくなりました。

舞い上がるガス風船

その後も、熱気球の授業が続きました。三浦先生が担当する3年生は、校庭で、4年生と一緒に熱気球の詳しい説明を受け、実際に一人ひとりバーナーを操作しました。スタッフに質問するための長蛇の列に、子どもたちの熱気球への興味、関心度合いが表れていました。

 

2時間目:本で進め!表現ワーク

2時間目に入ると、3年生は音楽室に移動。冒険心をかき立てられた子どもたちに向けて、「探究型読書」のワークショップが始まりました。

「探究型読書」のワークショップの様子

三浦先生は「先ほど、パイロットの人が、『熱気球は冒険するための道具だ』と言っていましたね。そこで、いつかみんなが冒険する時に向けて、想像を膨らませる稽古をしたいと思います」と、冒険ワークショップの扉を開いたのです。

 

ここで編集工学研究所(以下、編工研)のスタッフが登場。オノマトペと動詞を組み合わせて、熱気球を見て抱いた気持ちや感じたことを言葉にしよう、とお題を手渡しました。例をいくつか示すと、子どもたちから「ふわふわ上がる」「ぼーぼー燃える」「メラメラ燃える」「ゆらゆら浮く」と返ってきました。

編集工学研究所のスタッフとワークショップをうける子供たち

「自分が感じたことを言葉にできる」と子どもたちは手応えを感じていました。このワークショップで紹介されたのが「科学道100冊ジュニア」です。科学者も冒険者と同じように、未知の世界へ一人で分け入っていきます。だから、「科学の本もみなさんが熱気球を表現したように、オノマトペと動詞の組み合わせで表現できます」と編工研のスタッフが話しました。

 

自分だけのオノマトペと動詞の組み合わせ、そこに本をプラスした冒険が始まります。「冒険」という言葉を聞くと、熱気球に触れていつもとは違う気持ちになっていた子どもたちは、ワクワクした表情を浮かべました。

 

「どこを冒険したい?」と三浦先生が子どもたちに問いかけると、「宇宙!」「地中」「恐竜がいた時代」「ゲームの中」「お母さんの子ども時代」「深海!」と次々に出てきました。すかさず編工研のスタッフが問いを重ねます。「その冒険のイメージを、本を使って具体的にしましょう。どこに行きたい? 何にのっていく? 何をのせていく?」。

 

一人の先生が「はい!」と挙手しました。「私は自分の体の中に入ってみたいです」と発言。「大好きなケーキと一緒に体の中に入って、喉の中を落ちていって、おなか中をグルグルと回って、最後は『くさい、くさい』と言いながら、ポンと体の外に出たいです」と話すと、子どもたちは大笑い。みんなの中にこのワークショップへの前向きな気持ちが芽生えていました。

 

3時間目:本で進め!冒険企画ワークショップ

3時間目に入ると、いよいよ教室でワークショップです。ワークシートが配られました。

冒険企画ワークショップで使用するワークシート

実際のワークショップに入る前に、まずは、オノマトペと動詞の組み合わせを復習しました。熱気球に関係なく、もっと自由に発想していくと、だんだんと子どもたちはコツをつかんでいきました。

 

三浦先生の「音楽室の時よりもうまくなっているよ!」という言葉に子どもたちは勢いづきました。「自分が冒険したい世界をオノマトペと動詞でイメージしてみよう」と、三浦先生がリードすると、すぐに子どもたちは「ぷかぷかと浮かぶ」「パリパリと氷を叩く」「パパーンと跳ねる」などと応答。「オノマトペと動詞の組み合わせを体で表現してみて!」と先生が言うと、指名された子は喜んで前に出て「デューンと飛ぶ」と言いながら助走をつけてスライディングしていました。

 

イメージが十分に膨らんだ子供たちに、三浦先生が話をしました。「とても面白い本を廊下にたくさん用意してあります。この本を使って、自分の冒険を具体的にしてみましょう。教室にある本を使っても構いません」。一斉に子どもたちは廊下に出て、長い机の上に並べられた「科学道100冊ジュニア」の本を手に取りました。他のクラスの生徒も同じように廊下に出て、「自分の冒険」に関係がありそうな本を探し始めていました。

廊下にたくさん用意された本と子供たち

本にはすべて、中身の面白さが一目で分かるように、付箋紙にオノマトペと動詞の組み合わせが貼り付けられていました。そんな本を子どもたちは思い思いに手に取り、一人でじっと読み始めたり、友達と一緒に音読したり、「ここにいい本があるよ」と友達を呼びに行ったり。「次、代わって!」という催促の声も聞こえてきたりしました。

深海に関わる本

2時間目の音楽室での授業で「深海を冒険したい」と言っていた児童は、三浦先生に「ここに深海に関わる本があるよ」と教えてもらうと、ハッとした表情で本を取り、すぐにページをめくって、長い時間、その本に向き合っていました。

 

子どもたちは、しばらく本を眺めたり、部分的に読んだりしていましたが、自然と教室に戻り、ワークシートに向かい始めました。そして、行き詰まると再び本を探しに行き、また眺めたり読んだりして、教室に戻っていく、ということを繰り返していました。冒険のイメージが本を通して具体的になり、少しずつ言葉になっているようでした。

冒険企画ワークショップで使用するワークシート

「カキーンと打つ」というオノマトペと動詞の組み合わせをした一人の児童は「自分が星にのって飛び、隕石を打つ」という冒険をイメージ。行きたい場所は「世界と宇宙」、のっていくものは「星、車、飛行機」、のせていくものは「計画書、地図、星の知識、バット、予備のバット」と、目を輝かせながら、広がった連想を書いていました。

 

三浦先生は「熱気球イベントの勢いが『科学道100冊ジュニア』を使った『探究型読書』につながり、その結果、子どもたちの中にあった言語化されていない思いを具体的な言葉として引き出せたと思います」と、この一連の試みに大きな手応えを感じていました。

(おわり)