こんにちは。埼玉県立浦和第一女子高校(浦和一女)で、学校司書をしている木下通子です。
このコラムでは、高校図書館の「学び」への取り組みや、学校司書の仕事、そして高校生へのおすすめ本をお伝えしていきます。今回は連載の最終回です。
電子書籍の貸し出しをスタート
浦和一女の図書館では2月1日から電子図書館サービスを始動し、電子書籍の貸し出しを開始しました。
電子書籍は紙の本と比べて単価が高く(2〜3倍くらいです)、学校の図書費ではたくさんは購入できません。電子書籍の選書をするにあたっては、新書(国語科で新書のレポート課題が出るので利用率が高い)と、英語多読用本(*1)に限ることとし、約100冊の蔵書でスタートしました。来年度も100冊ほど増やしていく予定です。
(*1)英語多読用本……「英語多読」は、多くの英文を読むことで、英単語をたくさんインプットする学習法です。多読用本は語彙数でレベル分けされています。浦和一女では英語科で多読を推進しているので、貸し出しが非常に多いです。
なお、現在の図書館向けの電子書籍は、有効期限と使用回数制限ありのライセンスです。2年間または52回貸出(同時貸出数1)の制限付きで、それを超えると本が削除される仕組みになっています。
年度末のこの時期に電子書籍を導入したメリットは、3年生が利用できることです。3年生は大学受験を控え、2月から家庭学習期間に入りましたが、進学先が決まったから本を読みたいという生徒もいます。そんな生徒に、電子書籍の案内をするととても喜ばれます。自分がどこにいても、その場で本を借りられるのは大きな利点です。
日本の図書館では電子書籍の貸し出しはまだまだ普及していませんが(*2)、これからどんどん変化していくでしょう。
(*2)2021年1月現在、全国に3000以上ある公共図書館のうちで、電子図書館サービスを実施している図書館は約140館にとどまります。
浦和一女の電子図書館Digital Library。ここから本校の蔵書検索サービスにも入れるようにバナーをつけています。また、外部のサイトの有効活用も促すため、名作読物は青空文庫(著作権が消滅した作品などを公開している電子図書館)へ、新刊はさいたま市図書館の電子書籍サービスにリンクを張っています。
電子書籍の導入にあわせて、図書館の蔵書検索サービスもバージョンアップしました。公共図書館と同じようにマイページができて、自分がいま借りている本、予約している本がわかるようになりました。蔵書検索サービスの改修を含め、4月には図書館のホームページをリニューアルする予定です。
文科省が推進するGIGAスクール構想(ICT教育を実現していく構想)の一環として、埼玉県では校内にWi-Fiスポットを設置中です。県が設置したWi-Fiを使って、生徒たちは自分のスマートフォンでインターネットを利用することができます。図書館の蔵書や授業で活用するデータベースなど、校内どこにいても検索ができるようになり、探究活動にも役立ちます。2020年度は新型コロナウイルス感染症の流行でいろいろと大変でしたが、それを機にデジタル化が一気に進んだのは不幸中の幸いと言えるでしょう。
埼玉県高校図書館司書が選んだイチオシ本
私たち埼玉県の高校図書館司書は、毎年2月に「埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本」を発表しています。
イチオシ本2020では、2019年11月から2020年10月の間に出版された本の中から高校生に薦めたい本を投票し、ベスト10を決定しました。
11回目となる今年のベスト10は画像のとおりです。
文芸書が6冊、働き方を考える本が2冊(2位・8位)、つよく生きるための本が2冊(5位・9位)ランクインしました。埼玉県高校図書館フェスティバルのサイトに、ベスト10に選ばれた本の著者のコメントが掲載されているので、ぜひ御覧ください。
1位に選ばれたのは、伊吹有喜さんの『雲を紡ぐ』(文芸春秋)です。
主人公はいじめが原因で学校に行けなくなった高校生の美緒。盛岡の祖父母のところへ家出したことをきっかけに、家族が絆を取り戻し、美緒自身も生きる目標を見つけていく物語です。本を読むだけで盛岡の情景や、物語の軸となる「ホームスパン」という織物の色合いが浮かんできました。
高校生時代は、人間関係や自分の将来について悩む時期です。この作品は、大人になるとはどういうことかを考えるきっかけになると思います。
例年は1位となった本の著者と編集者をお招きして、埼玉県内で公開収録インタビューをしているのですが、今年はコロナ禍で集まることが難しかったため、感染対策をしながら出版元の文芸春秋でインタビューをさせていただきました。埼玉県高校図書館フェスティバルのページでインタビューの動画をご覧いただけます。
高校生に薦めたい「科学者」の本
「埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本」には科学の本が入りませんでしたが、私から高校生に薦めたい本を2冊紹介します。どちらも「科学道100冊2020」のテーマ本「世界を変えた科学者」からです。
1冊目は『生命科学者たちのむこうみずな日常と華麗なる研究』。
著者の仲野徹さんは伝記を読むのが大好きなお医者さん。この本は、生命科学者18人の伝記が仲野さんの視点で描かれています。
日本人では野口英世、森鴎外、吉田富三、北里柴三郎が登場。森鴎外は小説家として有名ですが、軍医でもあり、当時軍で蔓延していた脚気の治療法をめぐり論争を起こしていたそう。医学や議論好きの鴎外のことだけがクローズアップされていて新鮮でした。また、文庫版では特典として著者自身の自叙伝が掲載されていて、高校生にとって科学者が身近に感じられると思います。
もう一冊は、子どもから大人まで楽しめる『ダーヴィンの「種の起源」』。
『種の起源」の概要は知っていても、読んだことのない人は多いと思います。この絵本はダーウィンの進化論を噛み砕いて説明してくれているので、子どもから大人まで楽しむことができます。色彩がとてもきれいで、自分でも欲しくなりました。
船で世界中をめぐり、動物の研究をし、化石を集めていたダーウィン。この本の著者、サビーナ・ラデヴァさんはロンドンで働くグラフィックデザイナーですが、もとは分子生物学の修士号をもつ科学者。日本語訳は生物学者の福岡伸一先生です。
難しいイメージのある科学の本ですが、ワクワクできる本はたくさんあります。まずは「科学道100冊」を手がかりに、読み始めてみてくださいね。
学校図書館のサービス向上を願って
さて、2年に渡って連載させていただいた「図書館司書だより」は、今回をもっておしまいになります。この連載を通じて、学校図書館の活動に興味を持ってくださった方もいると思います。つたない文章でしたが、読んでいただきありがとうございました。
コロナ禍を機に文科省のGIGAスクール構想が前倒しになり、学校のICT化は急速に進むでしょう。司書がいる学校図書館は、先生方と連携しながら図書館のICT化を進めることができますが、全国には図書館担当者が不在で、開館もままならず、新しい本が購入できない学校図書館もあります。全国では学校図書館に司書がいる学校はまだまだ少なく、司書がいる学校といない学校の格差が、より広がっていくことが本当に心配です。
子どもたちが日本全国どこに住んでいても、自分の通う学校図書館からサービスを提供され、読みたい本を手に取ることができ、本を通じて新しい出会いや発見ができるようにと願ってやみません。
木下通子(きのした・みちこ)
1985年に埼玉県の司書採用試験に合格し埼玉県の高校司書となる。現在、埼玉県立浦和第一女子高校担当部長兼主任司書。ビブリオバトル普及委員、埼玉県高校図書館フェスティバル実行委員長などを兼務し、図書館関係の活動に携わっている。著書に『読みたい心に火をつけろ!――学校図書館大活用術 (岩波ジュニア新書)』ほか。