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宇宙好きの原点は『銀河鉄道の夜』のわからなさ─坂井南美博士

坂井南美(さかい・なみ)博士
理化学研究所 開拓研究本部
坂井星・惑星形成研究室 主任研究員
 
高知県出身。幼い頃に父親に買ってもらった天体望遠鏡がきっかけで星に興味を持つ。早稲田大学理工学部物理学科を経て、東京大学大学院理学系研究科博士課程を修了。博士(理学)。その後東大理学部助教を経て、2015年より理化学研究所 准主任研究員。2018年より現職。2013年日本天文学会研究奨励賞受賞。2018年ナイスステップな研究者に選出。

坂井南美博士

『銀河鉄道の夜』に引き込まれた小学校時代

小学生のとき、東北地方への修学旅行を前に、東北ゆかりの文学作品が紹介された。「その一つが宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』でした。最初の印象は、暗いし、よく分からない。でも、銀河鉄道が宇宙を走っていく、あのイメージは好きでした。人はどこから来てどこに行くのか、生と死についての疑問が生まれ、引き込まれていきました」。天体望遠鏡を買ってもらった直後だったこともあり、毎晩のように夜空を見上げていた。

銀河鉄道の夜

坂口安吾の怖さと美しさは、宇宙に似ていた

中学生のとき、数学・物理塾で薦められて読んだ坂口安吾の『桜の森の満開の下』も印象に残っている。「山賊が満開の桜の木の下で愛する女を誤って殺してしまい、その体が花びらになって消えていくという怖い話なのですが、その風景を想像すると、とても美しい。それは宇宙に共通しているな、と感じました。宇宙は、少し怖いけれども美しい。そんな不思議な感覚を味わいたくて何度も読みました」。

 

『星の王子さま』にときめいた中学時代

また、中学校の英語の授業で、サン=テグジュペリの『星の王子さま』を読むことに。「英語が嫌いだったので、何が書いてあるのかよく分かりませんでした。まずは日本語で、と翻訳を読みました。これも生と死の話ですが、哲学と宇宙が結び付いた世界観が魅力的で、大好きな本になりました」。
 
 

研究テーマのきっかけは、池澤夏樹の小説

物理が好きだったことと、宇宙についても学べることから、早稲田大学理工学部物理学科へ。統計力学の授業で、自分でテーマを決めて調べるという課題が出た。アルバイトをしていた前述の塾で、偶然「宇宙に水はどのくらいあるのだろうか」という話になり、水をテーマにしようかと考え始めた。

 

そんなとき友人から「物理が好きなら絶対好きになる」と薦められたのが、池澤夏樹の『スティル・ライフ』だ。「バーで水の入ったグラスを見つめながらチェレンコフ光の話をする、冒頭のシーンから引き込まれました」。

スティルライフ

その会話の背景には、巨大なタンクを水で満たした「カミオカンデ」で宇宙から飛来したニュートリノが発するチェレンコフ光を捉えたという、ノーベル賞の対象にもなった発見がある。その後継の「スーパーカミオカンデ」をテーマに選んだ。「宇宙と水。今の私の研究にもつながる言葉と、このときに出会いました」。以来、池澤夏樹の本をたくさん読んできた。「池澤さんが翻訳した『星の王子さま』を見つけたときはうれしかったですね」。

宇宙好きの原点は宮沢賢治だった

宇宙の研究を職業にすることに不安があったが、やってみたいという気持ちが勝って大学院へ進むことに決めた。「相談に乗ってもらった研究者に、宇宙の何をやりたいの?と聞かれ、即答できませんでした。

そこで、なぜ宇宙が好きなのか考えてみました。すると、たどり着いたのが『銀河鉄道の夜』。宇宙の中で私たちはどうやって生まれたのか、起源を知りたいのだと気付いたのです」。

 

英語で読んだ、望遠鏡の建設ドキュメンタリー

東京大学大学院では、惑星系の形成過程でどのような物質がつくられるかを明らかにするため、世界中の電波望遠鏡で観測を行った。米国にあるグリーンバンク望遠鏡を訪れたときのこと。「売店で『But it was Fun』という本を見つけました。教科書を除けば、自分で買って読んだ初めての英語の本でした」。

butitwasfun

そこには別の電波望遠鏡があったが、ある夜突然、ごう音とともに崩れ落ちたのだという。「崩壊から新しい望遠鏡の建設までがドキュメンタリー風に語られていて、原因を探るサスペンス的な要素もあり、ドキドキしながら読みました。しかも苦労の歴史なのに『だけど楽しかったよ』という書名を付けてしまう。私は楽観的で、楽しむことが大事だと思ってきたので、それでいいんだという自信にもなりました」。

 

宇宙の研究で私たちの起源を知りたい

2015年に理研で研究室を立ち上げ、惑星系の形成過程が多様であることなどを解明してきた。「私たちの太陽系は、ありふれた存在なのか、まれな存在なのかを、明らかにしたい。構造などの物理的な面と、物質という化学的な面の両方から迫ることで、私たちの起源にたどり着けると考えています」。

子どもたちにもいろいろな本に出会って欲しい

坂井南美博士
宮沢賢治の本を読み返したいと思うが、最近よく読んでいるのは、ヨシタケシンスケの『りんごかもしれない』や、島田ゆかの「バムとケロ」シリーズ。3歳と6歳の子どもたちがお気に入りの絵本だ。読むたびに新しい発見があり、一緒になって楽しんでいる。「子どもたちもいろいろな本に出会ってほしいですね」。

 

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト、撮影:STUDIO CAC)

 

銀河鉄道の夜

宮澤賢治/著

新潮社

1989年6月

 

桜の森の満開の下

坂口安吾/著

講談社

1989年4月

 

星の王子さま

サンテグジュペリ(著)、池澤 夏樹(訳)/著

サンクチュアリ出版

2011年5月

 

スティル・ライフ

池澤夏樹/著

中央公論新社

1991年12月

 

りんごかもしれない

ヨシタケシンスケ/著

りんごかもしれない

ブロンズ新社

2013年4月

 

But It Was Fun: The First Forty Years of Radio Astronomy at Green Bank

cover.thumb

National Radio Astonomy Observatory

2007年7月

『バムとケロ』シリーズ

島田ゆか/著

『バムとケロ』シリーズ

文溪堂

2011年4月