【学校司書だより⑧】休校中の学校図書館

【学校司書だより⑧】休校中の学校図書館

こんにちは。埼玉県立浦和第一女子高校(浦和一女)で、学校司書をしている木下通子です。 

  

このコラムでは、高校図書館の「学び」への取り組みや、学校司書の仕事、そして高校生へのおすすめ本をお伝えしていきます。

 

生徒のいない新学期

本来なら、新入生を迎えて希望あふれる4月でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の防止のため、政府が緊急事態宣言。埼玉県でも緊急事態措置が実施され、学校は5月末まで臨時休校となりました。5月25日に埼玉県を含む5都道県の非常事態宣言が解除になりましたが、しばらくは分散登校で、通常授業がはじまるのは、しばらく先のようです。

 

3月は登校日に生徒と会うことができましたが、その後は登校日もなく、にぎやかな声が聞こえない学校は寂しいです。休校が長引く今では全国的に広がっていますが、本校では4月に入ってすぐに、Google Classroomを使って、生徒に向けた授業動画の配信や課題の配信を始めました。

 

新入生もGoogle Classroomの登録をし、休校中担任の先生がオンラインでホームルームを行っています。どの教科の先生も授業を動画配信されていて、先生方の授業準備は通常授業以上にたいへんで、ご苦労されながらわかりやすい授業になるよう工夫されています。図書館も教材研究で活用されるため、私は出勤と在宅勤務を併用しながら仕事をしていました。 

 

休校中の学校図書館

Google Classroomですが、図書館も4月17日に「図書館ルーム」を開設。現在、希望者350名ほどが登録しています。図書館からは、本の紹介や便利な検索サイトの情報、データーベースの使い方図書館の歴史などを、解説をしながら毎日発信しています。 

 

また、図書館本の検索サイト「カーリル」の「COVID-19 : 学校向け蔵書検索サービスの無償提供」に申込をし、生徒が自宅から本校図書館の蔵書検索をできるようにしました。

詳しくは「日本最大の図書館検索:カーリル」をご覧ください。

 

蔵書検索機能を活用し、管理職と相談し、在校生を対象に着払いでの本の郵送貸出にもトライしました。

在校生宛ての郵送貸出のご案内のWebページ画像

 

郵送貸出については、埼玉県内の公共図書館では行われていますが、高校図書館では経費の問題や申込の受け方など課題が多く、本を届けたい気持ちはあっても難しいと思っていました。郵送貸出にチャレンジした全国の高校図書館の先行事例を参考にしながら、日時を限定して申込を受け付け、一回限りで郵送するということにしました。

 

予定通り学校が6月スタートとなれば、ちょうど生徒の手元に本が届いてから2週間ほどでの再開になるので、いいタイミングでした。本の郵送貸出に関する生徒からの反響については、次号でお伝えできればと思います。

 

『ペスト』がベストセラーに

新型コロナウイルス騒ぎの中で、フランスの作家、アルベール・カミュの『ペスト』が大ベストセラーとなっています。この本が出版されたのは1947年(新潮社の日本語版は1969年)。伝染病であるペストが猛威を振るい、北アフリカのオランという街が外界から遮断され、市民が極限状態に陥る様子を描いていて、現在の私たちの状況と似ています。『ペスト』は古典文学なので少し読みにくい部分もあります。

 

読みにくいけれど、挑戦してみたいという方には、この本を読み解くための解説書として岩波ブックレットから出ている『われ反抗す、ゆえにわれら在り』を一緒に読むことをお勧めします。

 

ペスト

アルベール・カミュ/著

ペスト

新潮社

1969年

われ反抗す、ゆえにわれら在り カミュ『ペスト』を読む

宮田光雄/著

われ反抗す、ゆえにわれら在り カミュ『ペスト』を読む

岩波書店

2014年

 

『ガラスの地球を救え』で想像力を育む

学校が休校になったり、緊急事態宣言が出たり、世の中が落ち着かない状況になり、「コロナ鬱」という言葉が生まれたりしています。そんな私たちに必要なのは、想像力です。

 

今回ご紹介するもう一冊は、手塚治虫さんのエッセイ『ガラスの地球を救え』です。

ガラスの地球を救え

手塚治虫/著

ガラスの地球を救え

光文社

1996年

この本は手塚治虫さんの遺作エッセイで、亡くなった約半年後に出版されました。実は、私がこの本に出合ったのは、今年大学を卒業して社会人になった娘が小学生の時で、娘が小学校の先生から紹介された本でした。 

 

この本は手塚治虫さんが、執筆されたマンガやご自分の小さい時のエピソードを織り交ぜながら、地球環境を守って自然と共存していくためにはなにが必要かを語ってくれているエッセイで、とても読みやすい本です。

 

手塚治虫さんが小学校3年生の時に、絵画教室の帰りにホットケーキを食べようと一人で喫茶店に入ったけれど、喫茶店だと思って入ったのは実は高級レストランで、出るに出られずドキドキしながらビフテキを食べたというエピソードや、「やじうま根性は健全なパワー」という、興味を持って取り組むことが科学技術の発展の話につながるエピソードには感心させられました。 

 

困難なことがあっても、それを笑いに変えられるユーモアや、広い視野を持っている手塚治虫さん。今この時期だからこそ、一度読んでいても心に響く本でした 

 

木下通子(きのした・みちこ)

1985年に埼玉県の司書採用試験に合格し埼玉県の高校司書となる。現在、埼玉県立浦和第一女子高校担当部長兼主任司書。ビブリオバトル普及委員、埼玉県高校図書館フェスティバル実行委員長などを兼務し、図書館関係の活動に携わっている。著書に『読みたい心に火をつけろ!――学校図書館大活用術 (岩波ジュニア新書)』ほか。