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読書道

読書で知のネットワークを 広げてほしい 読書で知のネットワークを 広げてほしい 読書で知のネットワークを 広げてほしい 読書で知のネットワークを 広げてほしい
理化学研究所 理事長 理化学研究所 理事長 松本 紘 松本 紘

1942年、中国・張家口生まれ。61年京都大学工学部に入学し、同大学院に進学。専門は地球磁気圏・宇宙圏のプラズマの研究。その後も京大で研究に携わりセンター長を歴任後、08年同総長に就任。大学改革を実行した。15年春より現職。07年紫綬褒章受章。

宇宙物理学の研究者であり、京都大学総長時代にリベラルアーツを重視した大学改革を行ったことでも知られる松本紘理事長。国語や歴史の教科書を愛読した高校時代から、哲学書や芸術論を読みあさった研究者時代、多忙でも1日1時間は本と向き合うという現在まで、変わらない読書スタイルがあります。それは、そのとき考えていることに響く一節を本の中から探すという読み方。「自分の中に疑問をもっていると、本から語りかけてくれる」という松本理事長。長年の研究人生で培った、本との向き合い方を伺いました。

 宇宙物理学の研究者であり、京都大学総長時代にリベラルアーツを重視した大学改革を行ったことでも知られる松本紘理事長。

 国語や歴史の教科書を愛読した高校時代から、哲学書や芸術論を読みあさった研究者時代、多忙でも1日1時間は本と向き合うという現在まで、変わらない読書スタイルがあります。

 それは、そのとき考えていることに響く一節を本の中から探すという読み方。「自分の中に疑問をもっていると、本から語りかけてくれる」という松本理事長。長年の研究人生で培った、本との向き合い方を伺いました。

まずは自分で考えてから読む まずは自分で考えてから読む
Story of SCIENTIST-01 まずは自分で考えてから読む

 これまで多くの本を読んできましたが、ほとんどが行き当たりばったりです。著名な哲学者や文学者の全集を読破するといった読み方もしたことがない。その時々で自分の疑問や悩みを解決する助けとなるような本を探していると、答えをくれるものに出合うのです。

 私は、本は読むのではなく「見る」と言っています。パラパラと眺めながら疑問にぴたりと当てはまる箇所を見つけては、「やはりそうか」と膝を打ったり、「この著者は、なぜそう考えたんやろ」と推察したり。そんな読み方をしています。本を道具のようにつかっているのです。

 本を100冊読んだからといって、賢くなるわけではありません。物知りにはなるかもしれませんが、それは他人の知識です。大切なのは、まず自分の頭で考えること。その上で、わからないことのヒントを書物から見つけるのです。

 人からすすめられた本を読むのもいいですが、自分で手に取った本がどれだけ心に響くかを重んじるほうが、はるかに有意義だろうと思います。ですから、おもしろい本はたくさんありますが、私はあえて特定の本をおすすめしません。自力で本に出合うことが大事です。

哲学や宗教ついて考えた学生時代 哲学や宗教ついて考えた学生時代
Story of SCIENTIST-02 哲学や宗教ついて考えた学生時代

 実家が貧しく、本がたくさんある環境ではなかったので、子どもの頃は、ほとんど読書らしい読書をしていません。

 ただ教科書、それも国語や歴史など文系の教科書は愛読していました。大学は就職に有利だろうと考えて工学部の電子工学科へ進みましたが、じつは高校時代には、答えが決まっている物理や化学はおもしろいとは思えなかった。その点、文系の学科はさまざまな受け取り方ができて楽しかったですね。

 大学生の頃に読んだ旧約聖書の創世記には衝撃を受けました。

 神の起源に疑問を投げかけたスピノザの哲学書をかじって教会へ行き、牧師に疑問をぶつけたこともあります。理屈どおりに理解すればいいサイエンスのほうが、よほどやさしいと思いました。

“虚と実の境界にある皮膜”を豊かにする読書 “虚と実の境界にある皮膜”を豊かにする読書
Story of SCIENTIST-03 “虚と実の境界にある皮膜”を豊かにする読書 “虚と実の境界にある皮膜”を豊かにする読書

 科学というのは、時間をかけて完璧な理論を追究するものです。これに対して工学は、実社会ですぐに使えることを目指します。前者を虚学、後者を実学と呼ぶこともできるでしょう。

 私は大学時代に指導教官から問題を与えられ、苦労して「この問題には解がない」と証明したことがありました。すると、指導教官は「工学では、そんなふうに逃げたらあかん」と言うのです。厳密解ではなく近似解でいいから、1週間以内に答えを出せ、と。

 虚学と実学のどちらが優れているかという話ではありません。虚実を行き来しつつ、理性で「実」を見ながら「虚」を追究する形で進めるのが研究です。

 江戸の劇作家近松門左衛門は「虚と実の境界である皮膜にこそ芸の妙がある」と言いましたが、学問も同じ。そして、この皮膜の厚みや豊かさを決めるのが、教養なのです。

 学部から大学院を経て研究の道へ進むことになり、宇宙プラズマ物理学、宇宙電波科学、宇宙エネルギー工学を専門として取り組みました。当時最先端の学問で、先人はいない分野です。

 こうした全く新しいことを考えるときには、それまで頭の中に蓄積された異なる分野の知識や経験を柔軟に組み合わせて再構築する思考が必要です。

 だからこそ、自分の専門分野だけでなく、広い知識を吸収しておかなければなりません。私はもともと人間の生き様と科学をつなぐところに位置する本に関心があり、研究活動にもそれが大いに役立ったと思っています。

古典を読めば、時空を超えて過去の人とつながる 古典を読めば、時空を超えて過去の人とつながる
Story of SCIENTIST-04 古典を読めば、時空を超えて過去の人とつながる 古典を読めば、時空を超えて過去の人とつながる

 私は「学問とは、真実をめぐる人間関係である」と言っています。そこには今いる人だけでなく、過去も未来の人も含まれます。そして時空を超えて古今東西の偉人たちと自分を媒介する唯一のメディアが、書物なのです。

 古典というのは、多くの人がそこから何かを得て、役立つと認めたからこそ、長い歴史を経て現代まで残っている。自分自身を振り返っても、啓発されることが多かったのは、やはり古典です。

 ふと紐解いた『論語』や『徒然草』、夏目漱石や寺田寅彦が、どれだけ胸に響いたことか。先人も自分と変わらないし、同じような苦労して後世に知見を残してくれたのだと、感謝する気持ちになります。

 私は長年、宇宙プラズマ物理学などを専門としてきましたが、これもひとつの領域に過ぎません。世界的な研究者たちの多くは、理系の人でも哲学や法学、文学、歴史といった文系分野の教養が深く、文系の人でも工学や医学、理学、農学など理系の学問にも強い興味を持っています。

 若い人たちには、自分の専門分野に特化した狭い読書ではなく、多彩なジャンルの本を読むことをお勧めしたい。その上で、他人の知識であったものを再構築し、自身の知のネットワークを広げ、物事の本質を大枠で捉える目を養ってほしいと思います。