科学道100冊では毎年、各分野に精通した理研の研究者が選書アドバイザーを担い、本の選出に携わっています。
※全員のプロフィールとコメントは選書アドバイザーのページからご覧いただけます。
選書アドバイザーの研究者たちは学生時代、どんな本を読んできたのでしょうか?6名の科学者たちが影響を受けた本を紹介します。
中野明彦
(光量子工学研究センター 特別顧問)
専門は細胞内膜交通。タンパク質が細胞内でどのように運ばれるのか、メカニズムを研究している。
中野先生の科学道本
Q. 幼少期の印象深い読書は?
A. 野口英世やアルベルト・シュヴァイツァーの伝記。科学者や医者を志した原点です。
Q. あなたにとっての「科学道の本」は?
A. ゴードン・R・テイラーの『人間に未来はあるか』。生命科学を志すきっかけとなった本。人工臓器の技術や遺伝子工学の進歩がもたらす未来の人間の姿が描かれていて衝撃を受けました。物理学者になるつもりでしたが、この本を読んで「物理をやっている場合じゃない、これからは生命科学だ!」とあっさり転向しました。物理学者のシュレディンガーが書いた『生命とは何か』などにも背中を押されました。
科学道100冊2022でオススメの本
ガリレオの求職活動 ニュートンの家計簿─科学者たちの生活と仕事
若者へのメッセージ
何が役に立つかは、人生が終わるまでわかりません。『何のために』とは思わず、少しでも興味を覚える本があれば、手当たり次第に読んでみることをおすすめします。
櫻井博儀
(仁科加速器科学研究センター センター長)
「RIビームファクトリー」での実験プログラムを先導。不安定核の核構造とダイナミクスの解明を目指している。
櫻井先生の科学道本
Q. 学生時代の読書で、印象に残っているものは?
A. 大学生の時に読んだ文化人類学の本、特にカルロス・カスタネという方の本です。インディアンの呪術師の下で修業しながら書いたもので、スピリチュアルや幻覚性植物の話などが出てくる、禁書のような本でした。「なんだこれ」と思いましたが、文化人類学の研究者が非西欧的な「現場」に身を投じて体験的に考察を深めていく研究スタイルに惹かれました。
Q. あなたにとっての「科学道の本」は?
A. トーマス・クーンの『科学革命の構造』。パラダイムという概念をこの本で初めて知り、強い衝撃を受けました。
科学道100冊2022でオススメの本
10代の若者へのメッセージ
これから社会の構造は変わります。そんな時一番大事になるのは、自分で考え、行動し、何かを見いだし、自分なりに納得して生きていくこと。若い人には「おもしろそう」と思ったことはどんどんやって、自分の可能性を広げてほしいです。
佐野健太郎
(計算科学研究センター プロセッサ研究チーム チームリーダー)
回路再構成型やデータ駆動型など、既存の計算機とは異なるアーキテクチャやシステムを研究している。
佐野先生の科学道本
Q. あなたにとっての「科学道の本」は?
A. 発明家の偉人伝
小学生の時に読んだエジソンやライト兄弟の偉人伝が、私を理系の道へと導きました。電球や航空機の発明のように、常識ではできないと思われていたことに果敢に挑戦した彼ら。苦労の末に夢を実現する話を、夢中になって読んだ記憶があります。研究者魂を宿すきっかけになった本です。
Q. 無人島に1冊持っていくなら?
A. 『海辺を食べる図鑑』(向原祥隆)
理由はもちろん、生きるためには食べないといけないから。
科学道100冊2022でオススメの本
10代の若者へのメッセージ
過剰に恐れず、好きなことをするために、または好きなことを見つけるために、冒険をしてください。
柚木克之
(生命医科学研究センター 統合細胞システム研究チーム チームリーダー)
コンピューター上のシミュレーションで、細胞内の代謝とその制御機構をシステムとして明らかにすることを目指している。
柚木先生の科学道本
Q. 幼少期の印象深い読書は?
A. ディック・ブルーナの「子どもがはじめてであう絵本」などの絵本が今でも印象に残っています。小学生の頃はナポレオン、徳川家康、ベーブ・ルースといった偉人伝や「学習まんが 日本の歴史」など、家や学校に置いてあった本でビビッと来たものは手当たり次第に読んできました。
Q.学生時代の読書遍歴は?
A. 電車通学の合間に読んだ遠藤周作『沈黙』、塩野七生『ローマ人の物語IIハンニバル戦記』、ドストエフスキー『罪と罰』、ゲーテ『ファウスト』といったあたりが印象に残っています。科学の本は、矢野健太郎『すばらしい数学者たち』、藤原正彦『天才の栄光と挫折』、サイモン・シン『フェルマーの最終定理』など、数学者たちの人間像を描いたものから入りました。
Q. 科学以外で推薦したい本は?
A. ショーペンハウアー『読書について』。
「読書とは、他人にものを考えてもらうことだ」と作者は書いています。知識を得る喜びにおぼれて、本から教わったことをそのまま鵜呑みにしていると、自分で考える力を失ってしまう危険があります。春先になると、「大学生に薦める100冊」のようなブックリストの企画を目にしますが、こういったブックリストの最初か最後にはこの本を置くべきだと常々考えています。
科学道100冊2022でオススメの本
コンピュータ、どうやってつくったんですか?─はじめて学ぶ、コンピュータの歴史としくみ
FACTFULNESS─10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
10代の若者へのメッセージ
本をきっかけにして自分の中で“何かに夢中になるスイッチ”がONになることが大事ではないでしょうか。好奇心を太らせるため、いつもと違うジャンルに触れるのも一つの方法だと思います。
南後恵理子
(放射光科学研究センター 利用技術開拓研究部門 SACLA利用技術開拓グループ 分子動画研究チーム チームリーダー)
研究テーマは、X線自由電子レーザーを用いたタンパク質分子動画解析。
南後先生の科学道本
Q. 一番古い本の記憶は?
A. 幼稚園生の頃、知り合いのお宅で見た「植物図鑑」。色鮮やかで見たことのない植物の写真が印象に残っています。その後両親が買ってくれた教科事典も大好きでした。
Q. 小学生時代の読書歴は?
A. 小学校低学年の時に読んでいたのは、学研まんがひみつシリーズ。「地球のひみつ」「宇宙のひみつ」「海のひみつ」など。科学を学ぶ楽しさを教えてくれた本です。その後は、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』『モモ』、日本の児童文学では『霧のむこうの不思議なまち』など、ファンタジーの名作に夢中になりました。
Q. 中高生時代の読書歴は?
A. 江戸川乱歩、アーサーコナンドイルなどのミステリーや宮部みゆきの小説など。大人になってからも読み返している本は、星新一のショートショート。いつ読んでも色あせない近未来の話に心躍ります。
科学道100冊2022でオススメの本
10代の若者へのメッセージ
若いときに先達の知恵や知識にたくさん触れて、自分の頭で考える経験を積むことは、長い人生の基礎となり、必ずやいつか助けてくれるものになるでしょう。科学の扉を開くきっかけに、まずは本を手に取ってみませんか。
田中拓男
(開拓研究本部 田中メタマテリアル研究室 主任研究員)
専門はナノフォトニクス、光応用計測。光の波長より細かな構造を使った人工物質「メタマテリアル」を作り、光を自由自在に操る技術を研究している。
田中先生の科学道本
Q. あなたにとっての「科学道の本」は?
A. 『COSMOS』(カール・セーガン)
小学生の頃はじめて読んだ科学の一般書は、故カール・セーガン博士の『COSMOS』でした。この本は、単に星々の事だけが書いてあるのではありません。自然淘汰や様々な物理法則発見のストーリーがわかりやすく書かれていて、子どもながらに感動の連続でした。研究者になる直接的なきっかけではないにせよ、大きな影響を受けたことは間違いありません。
科学道100冊2022でオススメの本
10代の若者へのメッセージ
料理、掃除、洗濯など家事のお手伝い。これらの中にはあらゆるサイエンス、しかも教科書では学べない大切なものが含まれています。